オランダ風説書―「鎖国」日本に語られた「世界」 (中公新書)
江戸時代、長崎の出島のオランダ商館の人々が日本にもたらした「風説(噂)書」について、オランダ人と通詞の苦衷、情報伝達のメカニズムを中心に綴ったもの。まず、当時の外国からの入口は四つあり(他は対馬、薩摩、松前)、出島はその一つである上に、中国を含む東南アジアとの交易もあったとの論に、「鎖国」の概念が崩される。中国の国力の相対的低下により、幕府が西欧の動向に焦点を当てた事が、出島の単一入口説の端緒だとする。尚、「風説書」のオランダ側原文は存在しなかったとの立場を取っている。
オランダ人は貿易のみが目的であり、自身(東インド会社)の利益になる事しか通詞に伝えない。敵対関係にあるポルトガル等の誹謗中傷も行なう。「噂だが...」との言い方が可笑しい。幕府の心証を気にはしていた様だ。通詞は得た情報を取捨選択し、体裁を整え幕府に「風説書」を提出する。幕府は2つのフィルターを通して海外の最新情報を得ていた訳だ。幕府が「風説書」を利用する目的は、キリスト教弾圧徹底と西洋風近代化への抵抗のため。本書でも一章を割いて、幕府の脅威がキリスト教から「西洋近代」へ移行して行った過程が詳細に述べられている。翻訳の困難さにも相当筆が割かれている。通詞の誤訳に依って幕府が対応を誤ったとかの事例は無かったのであろうか ?
本書中、次のオランダ商館長の言辞は興味深い。「日本人はあらゆる通交関係の外に暮らしていて、オランダ人が言うことをほとんど何でも信じる」。現代の映し絵の様である。実際、東インド会社が解散した事は、一年以上も日本には知らされなかったのである。本書は17〜19世紀のオランダ交易の盛衰史を語っているとも言え、その点でも興味深い。「世界の中の日本」と言う概念を再認識させてくれる本でもある。
爆笑問題の風説のルール―流行と事件のアーカイブ 2005‾2006
週刊プレイボーイで連載中の爆笑問題のコーナーが、またまた単行本になりました。
漫才形式で書かれた本書は、とても読みやすく、まるで漫才を聞いているかのようです。
2005年に起きた、事件やニュースなどを題材に漫才が展開していきます。
面白く勉強にもなる、まさに一石二鳥の本です。
風雪のビバーク (特選山岳名著シリーズ)
1949年、若干26歳にして槍ヶ岳・北鎌尾根に消えた天才クライマー、松濤明の死の直前まで書き綴られた最期の手記。
井上靖のベストセラー「氷壁」のモデルにもなっていたことは随分後になってから知ったが、この本を初めて読んだのは中学生の時の授業だった。
担当の教師が本格的な登山家で、授業中によく登山の話をしてくれた。ワラ半紙にこの本を印刷して配り、数日に渡っていつも以上に熱のこもった授業をしてくれたことを思い出す。
その1年後、彼はエベレストに行き登頂、無事成功し生還した後もまた中学教師を続けていたが「教師か登山か」と当時の校長に選択を迫られ、山を選び教職を去った。
(「スポーツでメシが食えるか?」別冊宝島298に当時の話が詳しく掲載されているそうだ。)
あれから十数年。たまたま本屋で見かけ、当時のことを懐かしく思いながら改めて読んだ。
-我々ガ死ンデ、死ガイハ水ニトケ、 ヤガテ海ニ入リ、魚ヲ肥ヤシ、 マタ人ノ身ヲ作ル。-
登頂記録から遭難して一転、風雪の中体力尽きたパートナーと共に死を決意し、遺書へと変わる様は余りにも壮絶で潔く、そして美しい。
「家族には申し訳ないけど結局、登山家という奴等は山で死ぬのが本望なんだ。」とその教師がよく言っていた。
同著者の「山を想う心」という随筆も機会があれば併せて読むことをお勧めするが、山男という人種は大概どうしようもなきロマンチストである。
読み物として一流。登山に興味がない人でも楽しめるので是非読んで頂きたい一冊。