学びなおすと地学はおもしろい
地学というと、とかく地味で魅力がなかったり、または、プレートテクトニクスやスーパーブルームのような現象から、逆にパニック映画ネタになったり
するのですが、「大地の如く動かざる」という(実際は違うのですが)ように、我々の生活の、文字通り「基盤」となっている、大地そのものをテーマに
包括的、かつ判り易く、同時にかなりの高度な概念まで上手く説明してくれている良書です。
地震、津波といった災害から、深層海流や河川・地層内浸透水の流れ等による環境変化、特に後者は、環境汚染物質の拡散浸透に直結する問題です。
私自身が、ISO14001/EMSの審査資格を持っているため、特に地下タンク・地下配管系からの漏洩(必ずしも汚染だけではありません。水道水の無駄にも
なり得ます)等と結びつけて考える、非常に良いきっかけになりました。
序文にある、「(細分化された知識を俯瞰的・体系的に)学び直すことの大切さ」、「Geology underlies everything(全ては地学を基礎にしている)」
という言葉は、ゴミ一つ出すにも地学的な考察・検討なくしてはダメ、ということを端的に表しています。例えば、地中に封じ込めた廃棄物(核廃棄物質
から固化二酸化炭素まで)が、今後どういう挙動を示すのか? また、逆に、資源としての地下物質の挙動はどうなのか。
上手く易しい例(煎餅を取りあいするのに、力任せで割り取ろうとすると、応力集中でちょっぴりしか食べられない、とか)を多くひきながら、実はかなり
高度なレイノルズ数、ストークスの法則、九州大学でいともカンタンに再現してしまったサイズマイトの逸話等。章毎にテーマがキチンと書き分けられて
いるので、通読すれば俯瞰的に、章毎には掘り下げるきっかけがあり、巻末の参考文献や、いきなり完成した教科書より、その分野の学問の成立過程の歴史
を読むのが良い、とか、学ぶための汎用的なヒントも満載です。成立過程を知れば、非常に難解な分野も判り易い例として、下記を挙げておきます。
複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)
【追記】
偶々このレビューをアップしたタイミングで、東北関東大震災が発生しました。被災地の方々には、衷心よりお見舞いを申し上げます。
都内ですら、江東区辰巳・新木場地区では大規模な液状化現象が起こり、隅田川も両国付近まで津波による逆流がありました(波高数十センチ以上)。
決して他人事ではない災害を肝に銘じて、本書を推奨します。
また、日本近海における地殻プレートの動向とメカニズムについては、この本がきっちりと学術的に記載しています。古典に類するものながら、併せて読ま
れることをお勧めします。
大地動乱の時代―地震学者は警告する (岩波新書)
グローバリゼーションとは何か―液状化する世界を読み解く (平凡社新書)
正直なところ、よく理解できたという実感は得られませんでした。それは、グローバリゼーションという言葉によって説明出来るものを数多く紹介されている為だと思います。それでも、この本を読んで良かったと思います。というのも、グローバリゼーションなる物がぼんやりと分かってきたからです。
現代のいわゆる先進国は高度成長による資本蓄積が進んだ結果、飢餓に対する恐怖がなくなりました。以前は、家族、共同体あるいは国家という組織によって飢餓に対するリスクを減らしていたのですが、それらの組織を厳密に維持する必要性がなくなってきた。すると、個人はそれらに対する帰属意識を失っていくことになった。すなわち、個人にとって組織という領域の境界線が曖昧になってきたというのです。その曖昧さに多国籍企業が育つ。
グローバリゼーションの反対はナショナル化ですが、グローバリゼーションに反対すると言ってナショナルを標榜しても意味が無いとしています。それは、グローバルとナショナルが表裏一体のもので、グローバルはナショナルに内在するからだとしています。では、どうしたら良いか?それが本書に抜けている問題です。答えが無いのか、読者に考えさせているのか。文末に、”限りなく困難”との記述があることから、現時点では明瞭な答えが無いようです。