応家の人々 (徳間文庫)
1961年に東都書房から出た単行本の文庫化。
戦前の台湾を舞台とした長篇ミステリである。なかなか複雑な事件で、地元の因習、台湾の風俗、日本人と現地人との関係、食文化などもストーリーに盛り込まれていて興味深い。
しかし、著者の代表作とされる一冊なのだが、こんなものかという軽い失望感もある。もう少しプロットをどうにかできなかったものか。
飄々とした主人公は面白い。
黄色い部屋の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 58-1)
書き方がとても上手な作家だと思いました。ふつうの描写の仕方では、ラルサンの****も、不思議なガルリーも、意味をなさなかったでしょうね。作者は、探偵役ルルタビユのせりふも、細心の注意をはらって書いてます。読者をたぶらかすために、言葉を選びに選んで、ふさわしい語り口を選んでいます。すばらしいです。アガサ・クリスティがこの作品に、ひどく感心したそうですが、よくわかります。念入りに仕組まれた小説の中に、意想外の真相が、巧みに隠されているのですから。
フランス怪談集 (河出文庫)
フランスの怪奇モノが,幻想小説という名で呼ばれることが多い中,『ドイツ怪談集』『イギリス怪談集』などと合わせて,このタイトルで出された意気込みが感じられるラインナップでした。
幻想と怪談の違いは実のところわかりませんが,分からないながらも,「うん,これは怪談だ」と妙に納得していました。
メリメ,アナトール・フランスなど,フランスを代表する作家の小作だけどいい味の作品や,ルヴェルやゴーティエの代表作など,バランスよく収録されていてかなりおいしい1冊です。
たしか渋沢竜彦氏の『世界幻想名作集』だったと思うのですが,アポリネールの「オノレ・ジュブラックの失踪」の解説で,この本に掲載されているエーメの「壁を抜ける男」が紹介されていました。
「壁」というアイテムが共通しているのですが,どちらも非常に気味が悪くて,いい怪奇です。
図らずも,読みたかった作品を見つけることができ,至福の時を過ごしました。