去年マリエンバートで 【スタジオ・カナル・コレクション】 [Blu-ray]
国内盤と同仕様と思われる、日本語字幕を収録した
英Optimum社より発売中のUK StudioCanal Collection盤のレビューです。
国内盤の発売前ですが参考になると思うので掲載します。
・本編について
片面2層ディスク。
本編はMPEG-4 AVCコーデックの1080p HD画質、画面サイズ2.35:1で収録。
コントラスト、グレインともに適度なレベルに仕上がっており、
多少のキズや歪みは見られるものの、かなりの高画質といっていいと思います。
音声も良好です(オリジナルのフランス語およびドイツ語の吹替が
DTS-HD Master Audio 2.0chで収録されています)。
なお、米Criterion社から発売されているUS盤(私は所有していませんが)
はフランス語音声をリニアPCM 1.0chで収録しています。
・字幕について
日本語字幕はユニバーサル=StudioCanalのソフトにしては
かなり良い出来だと思います。
2人分のセリフが同時に表示されることも、漢字が多用されることもありません。
翻訳も良好で、不自然な部分はありません(翻訳者クレジットなし)。
しかしながら、冒頭の(同じフレーズを繰り返す)ナレーションの
繰り返し部分が表示されていなかったり(この部分は英語字幕で確認できます)と、
やや疑問もあります。
私は紀伊国屋書店より発売のDVD盤を観ていませんが、
日本語字幕については細川晋翻訳の字幕を収録したDVD盤の方が
より信頼できるかもしれません。
日本語以外に英語やドイツ語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、
フィンランド語、スウェーデン語の字幕を収録する多言語仕様。
・特典について
「ジネット・ヴァンサンドーによるイントロダクション」(SD・19分・日本語字幕付き)
…映画評論家のG.ヴァンサンドーが、本作の歴史的意義や内容の様々な解釈、
公開当時の観客への受け入れられ方を解説する、必見の特典。
US Criterion Collection盤にも同様の特典が新録で収録されているようです。
「短編1:『スティレンの唄』(1958年)」(HD・14分・日本語字幕付き)
「短編2:『世界のすべての記憶』(1956年)」(HD・23分・日本語字幕付き)
…ポリスチレン製品生産の過程と、パリの国立図書館を取材した、
アラン・レネ監督による短編ドキュメンタリー映画を美しいHD画質で収録。いずれも
従来日本ではDVD『アラン・レネ/ジャン=リュック・ゴダール短編集』(紀伊国屋書店)
でしか観ることができなかった貴重な作品です。
監督の美的感覚がうかがえる芸術的な作品に仕上がっています。必見です。
US Criterion Collection盤にも同じ映像が収録されています。
「ドキュメンタリー:『マリエンバートの迷路のなかで』」(SD・34分・日本語字幕付き)
…映画製作に至る過程や作品の解釈を巡る、見応えあるドキュメンタリー。
US Criterion Collection盤には未収録。
「ドキュメンタリー:『アラン・ロブ=グリエ』」(SD・49分・日本語字幕付き)
…本作の脚本を手掛けた作家のアラン・ロブ=グリエを取材したドキュメンタリー。
内容は『マリエンバート』とはあまり関係ないです。
US Criterion Collection盤には未収録。
「予告編」(SD・4分・英語字幕付き/日本語字幕なし)
欲を言えばUS Criterion Collection盤に収録されているメイキング・ドキュメンタリーや
監督インタビューのような映画制作の舞台裏に迫る特典も収録してほしかったところですが、
映画の内容の理解が深まる特典が収録されているのはうれしいものです。
・総評
現在手に入るDVDよりも綺麗な映像と貴重な特典が入っていながら
DVD盤(定価5040円)よりも安価であり、字幕も悪くないので、
日本語で本作を観るなら、このブルーレイは間違いなくオススメできます。
ただ、日本語字幕がなくてもよいならば、アラン・レネ監修の
US Criterion Collection盤の方がベターかもしれません。
去年マリエンバートで [DVD]
カメラのスローな視線に合わせて、シャトー・ホテルのバロック的な室内装飾を追いかけていくうちに劇中劇の中に観客は投げ込まれ、そこから非現実的なテアトルのように物語が進行します。この映画にとって時間や場所は重要なことではなく、登場人物の性格すら物語の中から排除されています。物語が進行するホテルの中は時間や場所の観念を離れた迷宮であり、登場人物たちは血の通っていない彫刻のようにそこに存在するのです。アラン・ロブ・グリエのいっさいの政治的や思想的、物語的な要素を排除した脚本とアラン・レネの映画的なすべてのものへの審美眼が素晴らしい、何度見ても脳を刺激される映画です。
カメラの構図は絵画的で、シュールレアリスムやキュビズムの絵画を思わせるシーンがいくつもあります。また衣装はシャネルだったと思いますが、映像は絵画的であると同時にファッション写真のようにセンスよくお洒落です。時代を超えても古くならない、普遍的な意識と美的センスを備えた数少ない映画のひとつでしょう。
去年マリエンバートで HDニューマスター版 [DVD]
タイトルだけは以前から知っていたものの、こんな凄い映画だったとは。
ただの不倫映画と思っていたよ…。
すばらしく幻想的で美しい世界でした。(興奮!)
これは何度も楽しめそうです。
モレルの発明 (叢書 アンデスの風)
ボルヘスとの共著でも名高いカサーレスの代表作です。小説でありながら、読了後、自己の在り方や、自己に内在する他者性といった抽象的な思考にいざなわれます。フォスティーヌという他者に思いを寄せることで生じるモレルという障害が<私>との共通性ゆえ、実は<私>が乗り越えなければならない、自身に内在する「他者性」そのものであるという、ある意味においてモレルと<私>に「鏡像関係」を生ぜしめ、つまりフォスティーヌに寄せる<私>の思いは、実は自己の内面に向けられたものであり、フォスティーヌの<私>に対する無視あるいは軽微な仕草は、<私>の内面における他者性の目覚めを意味しているように読めました。しかし、逆に<私>の内面における他者性の目覚めは、それを明確に認識、超克することで初めて為される、現実における他者とのつながり、あるいはつながることの不可能性を暗示しているようにも思われます。また、フォスティーヌとモレルとの関係も、巻末の「訳者解説」にあるように、モレルを「男装をした同性愛の女」と考えると、モレルを障害とする<私>の煩悶自体が無効になり、それがモレルのような存在そのものが無意味と言っているのか、そういった存在を通して煩悶することが無意味だと言っているのか、僕は後者のようにも思うのですが、それをかなり曖昧に書いているところから考えると、その曖昧さ自体が著者の意図するところではないかという気にもなります。ところで、訳者も述べているようにボルヘスによる序文は、この作品にスムーズに入っていくためのすばらしい先導役になっています。これからこれを読む人は、まずこの序文を十分に吟味して本文に入ると、作品の全体像がより鮮明になると思います。