三島由紀夫と一九七〇年
アマゾンとそのカスタマ・レビューの有り難い処は、自分が思いもよらない商品の存在を知る事が出来る事だ。今商品は、レビュアーM“アメリ”さんの過去のレビューを拝見していた過程で見つけた。アメリさんには感謝。
今商品は、自分にとってはふたつの意味で興味深いものがあった。ひとつは、添付されている日本未公開作にして未発売作「MISHIMA」DVDを観る事が出来た事。もうひとつは、あの板坂剛の発言に久しぶりに接する事が出来た事だ。
「タクシー・ドライバー」や「ローリング・サンダ―」の脚本家として知られ、監督としても「白い刻印」や「ハードコアの夜」を撮ったポール・シュレイダー。やくざ映画の大ファンで、日本の芸術や精神世界に造詣が深い彼が、同志社で教鞭を取っていた兄レナード(因みに、レナードもまた映画の脚本を手掛けた事がある。「太陽を盗んだ男」だ)と共同で、三島由紀夫の一生に迫った「MISHIMA」は、三島の作品世界のみならず、その性癖、切腹、美意識にまでに斬り込んだ作品。市ヶ谷の決起・最期の日をドキュメント風に、その一生がシンクロして描かれていく。丁度70年代初めの前衛的なATG映画みたいな雰囲気があるが、外国人が撮ったとは思えないほど、違和感がない。
「太陽を盗んだ男」や「ベルサイユのばら」を手掛けた後、ハリウッドに乗り込んで行った山本又一朗がプロディースし、コッポラ&ルーカスが後方支援した話題作。撮影時から話題になっていた豪華出演者陣は今観ても壮観。石岡瑛子のコスチューム・デザインが目を引く。
そして、板坂剛の名前を聞いて、70年代後半の「映画芸術」誌上で展開された“広告戦争”を思い出す方は、果たしてどのくらい居るのだろう?(笑)。
処女作で芥川賞を受賞した村上龍をターゲットにした2年半にも及ぶそのキャンペーンは、「東スポ」と中核派の機関紙「前進」の文体をパロり、板坂の当時の師であったアントニオ猪木と新日本プロレスも俎上に挙げながら、村上を挑発攻撃するモノであったが、反文壇権威的な気分に貫かれた笑えるアジテーションで、私の周辺では隠れたファンが多かった。
「三島由紀夫と1970年」と名づけられた本書は、楯の会と関係が深かった一水会代表の鈴木邦男との対談が主軸に据えられた構成。日大全共闘であった自身の体験を振り返りながら、三島の決起と切腹に至るまでの流れと意味を、新左翼と右翼相まみれた60年代後半から70年前半にかけてのムーヴメントを交え、ゲリラ・ジャーナリズム的でスキャンダラスな面白さに溢れている。