船を建てる 上
長らく絶版だった名作が完全収録で復刊され、発表当時からのファンとしてとても嬉しい。
上巻の中では、汽車に乗った老人のエピソードが特に好きだ。
老人にとっての「アメリカの海」は、自分にとっての「船を建てる」の世界と同義である。
老人の中で、過ぎた日の「アメリカの海」の思い出がリフレインするように
美しく詩的で愛らしい佇まいに無情と残酷さを内包した「船を建てる」の世界は
初読の時からずっと、自分の中で美しい響きをたてている。
ただ、サイズが旧版より小さいせいか、トーンの再現性などの点で印刷の質が旧版より悪く見える。
特筆すべき書き足しはなく、本当に作品を完全収録しているだけなので(それが美点でもあるが)
旧版を持っている者にとって「お得感」は少ない。
未読の方には、文句なくお勧め。
旧版を持つ人は、現物を確認されて一考されるもよし、という感じだ。
トミカヒーロー レスキューファイアー オリジナルサウンドトラック
4月の放送スタートから半年以上の時を経て、やっと発売されました。
1年分のBGMや歌(一部テレビサイズ)が2枚組でたっぷり収録されてます。
価格はかなりお得ですね。佐橋氏お得意のブラスとギターが効いたアクション系楽曲や大編成オケによる悪の侵略系音楽も充実してます。
どろんころんど (ボクラノSFシリーズ)
かつてのジュヴナイルを思わせるローティーン向けSFシリーズ、「ボクラノSF」の一冊。このシリーズ、どうやら本書以外は復刊のよう。
この著者の持ち味といえば、常識というか世界を認識する大前提を揺さぶられるディックの作品のようなあの読書経験を、空気系ともいうべき日常の描いた世界のなかで味わわせること。その舞台は、すこし・不思議(すなわちSF)な世界。
少女型アンドロイド(物語ではセルロイドと)にしてイベントコンパニオン、アリスの一人称で語られる物語の舞台は、人が姿を消した泥だらけの世界。アリスは宣伝する商品、亀型ロボット(レプリカメ)の万年一号とともにどろんこの世界を旅し、人の行動をなぞる泥人形のヒトデナシとともに人間の姿を探し求める。
模造亀(レプリカメ)もヒトデナシも泥だらけの世界も、北野作品(『かめくん』、カメリ・シリーズ)ではおなじみのモチーフ。ティーン向けのためか、いつもは解説されない作品世界の姿が、登場人物のひとりの口から語られることがかえって新鮮。もっとも、それが全貌でも事実でもないのかもしれないけど。(何せ結末にどんでん返し、すごく地味な)
世の中何が正しいのか判らないけど、前には歩いて行きたい(かつて少年だった)大人たちにお勧め。もちろん少年たちにもおすすめ。前向きな気持ちにさせてくれる一冊。
船を建てる 下
こんな作品が10年以上前の老舗少女漫画誌で連載されていたなんて!
海辺の街で暮らす2匹のアシカ、コーヒーと煙草。
ムダのない線で描かれた物語は、一編一編が良質の短編映画のように読む人の脳裏に深い余韻を残します。
下巻には旧版4巻〜最終巻までを収録。散らばったピースが集められ一つの物語が現れる終盤の手腕に脱帽。
崩壊と再生、罪と許し、そしてパレードの終わりと新たなる始まり。
新しい装丁もかわいらしいです。カラー頁3Pが描き下ろされています。ぜひ一読を。