東亜子と洋三―藤田小女姫の真実
とても不思議な本であった。確かに読みにくい。特に前半部は人間関係が複雑で、自ら系図を描きながら読み進めたが、それでもごちゃごちゃになって一度書き直したくらいだ。実際読んでいて途中で、何でこの本を買ったのか自ら不思議に思ったくらいだ。
実は藤田小女姫という人物についてはほとんど知らなかったし、殺害事件も本の中では当時テレビでも採り上げられて話題になったようだが、新聞記事で小さく見たくらいしか記憶にない。なのになぜこの本を買ったかといえば、口絵の写真の怪しさにただならぬものを感じたからではないか。
実は著者は藤田小女姫(東亜子)に結局会えなかったこともあって、東亜子に関しての記述は意外と少ない。実の母には最後には会えたが、実の父である「怪物」中村武彦にも会えていない。よってほとんどが著者自身のことで占められている。そこには「人さらい」にさらわれた子供の人生がどんなものであるかという、凄まじいばかりの怨念が文章に込められている。あとがきに連載の頃から戸籍関係が分かりにくいと指摘されたことが書かれてあるが、「“さらわれる”ということはこんなことなんだな、でたらめな戸籍の最後はこうなんだな」と感じてもらえばいいと書き改める気がないことを記している。書き改めたら、怒りに拳をぶるぶる震わせながら書いた情念が飛んでしまうと思ったんだろう。
著者は東亜子を利用した人物を許せなくて、モーニングショーの司会者だった故溝口泰男氏のエピソードを挙げているが、溝口氏が当時選挙に立候補しようとしたのに不出馬になったのは、やはり東亜子と関係があったんだと納得した。