象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
綿密に構築された世界の劇的な破局。
この短編集を貫く基調底音は、そんな言葉で表現できる。
非常に硬質な文体で隙のない作品世界を構築する著者であるが、
その魅力をこの短編集で遺憾なく発揮している。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
ちょいと癖あるひねた友人が、『面白いSFを読みたいんだけど』と聞いてきたら、わたしは迷わず本書を差し出す。(とっくに読んでいる可能性はあるけれど)
正直に言うと、わたし自身は文庫版にて初読したのだが、それはまるで、凄腕シェフの料理をついうっかり、赤字覚悟の大盤振る舞い、ランチのプリフィクス、しかもジーンズにセーター姿で味わってしまったような、情けなくも申し訳ない気持ちになる破目になった。ごめんなさいごめんなさい。今度は必ず、予約して正装で、ディナーをフルコースにて、最後のダイジェスティフまできちんと頂きますから、と。確かに、かっちりと組まれた長いながい活字世界であるのに、五感の総てを心地好く刺激してやまない端整華麗な文章は、読む行為そのものを、『うわっ、快感!』と叫ばせてしまう。ネタバレになるので詳細は書けないが、誰も来なくなったヴァーチャル・テーマパークの落日、そして…と最初のアミューズだけで心を持っていかれてしまうのだ。描かれている総ては、消され直され、撓めて伸ばし、研磨し尽され、と、丹精込めて仕上げられたプロット、血飛沫くほどの情熱で選び抜かれた表現であろうと思う。何が…書かれていても、さわさわさくさく、ふうわりとろり、と、甘くやさしく喉を滑ってゆくのだもの。決して歯に絡みついたり舌にざらついたりしない、手間と時間のかかった(いやほんとうに)逸品を、どうぞあなたも召し上がれ。
年端のゆかぬ子供が、『SFしょうせつってなあに』と聞いてきたら、この本にリボンを掛けて、こっそり枕元に置く日を想像しよう。そしてこう答えるのだ。ありふれた言葉だけれど。
『誰もみたこともきいたこともないせかいを、ものすごい想像力ととてつもない筆力で書いたほんのこと』と。
サイエンス・イマジネーション 科学とSFの最前線、そして未来へ
2007年に日本で開かれた国際的なSF大会、Nippon2007の中で開催されたシンポジウム企画「サイエンスとサイエンスフィクションの最前線、そして未来へ!」の講演録が収録されている。
主にロボット研究、AI研究の発表だが、最先端の研究内容に触れられ、興味深い。また、それプラス、そのシンポジウムに参加したSF作家たちの短編小説も収録されている。
収録されている作家は、瀬名秀明、円城塔、飛浩隆、堀晃、山田正紀と新旧、日本を代表するSF作家たちだ。
特に飛浩隆と瀬名秀明の小説はとてもいい。
それを読めただけでも、この本を買った甲斐があった。
人間の想像力とその文学的な表現、それこそがSFの命だ。