北上次郎選「昭和エンターテインメント叢書」(2)大番 下 (小学館文庫)
この小説には表記の言葉が全部当てはまる。しかしそれでいて読後に味わう爽やかな印象は心に染みてくる。この小説が近年読まれてないというのは残念だ。
ただ株式市場や相場師などに興味がないと手に触れる機会は少ないかもしれない。
かなりの長編だが、読み始めたらぐいぐい引き込まれる面白さをぜひ味わってほしい。
実在の人物や愛媛県南部地域の昭和初期の貧困など知る人ぞ知るである。
精力絶倫の主人公をめぐる数多い女性たちの魅力も面白いが、特にヒロインである二人にしんみりと泣かせられる。
のちに東宝が加東大介・淡島千景・原節子主演で4部作が作られた。全部で8時間近い大作だが、原作をほぼ忠実に映像化しているのに驚く。また重要な出来事はニュース映画や新聞記事を挿入して昭和の歴史を振り返りながら楽しめるのも素晴らしい。黒沢や小津映画に並ぶ大作だとも思う。残念ながらこの作品は現存しない。私はある映画フアンが所蔵しているビデオを最近借りることができて、いま原作と映画を比較しながら楽しんでいる。
北上次郎選「昭和エンターテインメント叢書」(2)大番 上 (小学館文庫)
主要登場人物にモデルがあり、株式会社や証券会社もモデルがある。つまり戦前の昭和の証券業界を背景に戦前戦後の変遷を描いた経済小説だが、当時の花柳界や風俗の世界も描く。主人公やヒロインの人間関係の緊密さと躍動が面白い。いまは映画ですら描く事の困難な昭和の社会の雰囲気を味わわせるのは作者ならではともいえる。戦後における華族の没落や、戦中の闇取引き。226事件からスターリン死去までの動きを挿入した昭和の歴史の展開も興味深い。昭和初年生まれの私には年代ごとに事件が思い出されて懐かしい。そして私はこれは名作だと考えている。
淡島千景・原節子らの競演による映画で一層人気があったが、かつて製作されたビデオ(全4巻)もないのが惜しまれる。ただ主人公ギュウちゃんを商標にした銘菓「大番」はいまも宇和島市で数軒が製造しよく売れているのが愉快だ。
海軍随筆 (中公文庫)
できれば「海軍」を読んでからがいいです。
この随筆集は、その方が胸にずしんと響きます。
海軍軍人に対する獅子氏の温かい眼差しが感じられ、
自分もひょっとすると獅子氏が触れた時代に、
そう、獅子氏のすぐとなりに立っているような
そんな気になる一冊です。
当時の日本の風は、今よりもっとサバサバとして爽快だったのでしょう。