地獄の季節 (岩波文庫)
「かつては、もし俺の記憶が確かならば、俺の生活は宴であった」(『地獄の季節』冒頭 小林秀雄訳)
多分まだ「子ども」だった頃、小林秀雄の翻訳『ランボオ詩集』(『地獄の季節』と『飾画(イリュミナシオン)』所収)の古ぼけた初版本が家にあったので読んだ。小林の翻訳が岩波文庫版となって、今なお多くの人に読まれているのはとても嬉しいことだ。私にとって、ランボオの翻訳は、ちょうどニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』の翻訳が氷上英広でなければならないように、小林秀雄の翻訳でなければならない。ランボオは、度重なるフランス文化圏(とりわけ狂信的カトリック教徒の母親)からの家出の末、フランスを遠く離れて、アデンを経てアビシニア(エピオチア)のハラルにまで到った。全身に!!転移した癌の、全く望みのない「治療」の為に、死ぬ寸前にはマルセイユに戻ったけれども。ともあれ、「先住民」の末裔を自認するランボオは、フランスの「豚ども」(『地獄の季節』)の、とりわけ彼が軽蔑してやまなかった、「文明」を支配しているつもりの「パリ市民」の息の根を止めた。そのようにして、決定的な「別れ」を告げたその瞬間、ランボオは次のように詠った。小林の訳である。
「如何にも、新しい時というものは、何はともあれ、厳しいものだ。(……)暁が来たら俺たちは、燃え上がる忍辱の鎧を着て、光り輝く街々に入ろう。(……)さて、俺には、魂の裡にも肉体の裡にも、真実を所有する事が許されよう」(『地獄の季節』の末尾「別れ」より)
何という素晴らしい言葉だろう。
参考までに、!「忍辱(の鎧を着て)」という表現は、『法華経』から取られている。
太陽の簒奪者 (ハヤカワJA)
とにかく読みやすい。難解なSFで一般読者を遠ざけ、アホらしいスペースオペラでお茶を濁す日本SFでは、珍しく自立した作品です。太陽系は広く、外宇宙はさらに広い。人類は旅人にはなれず出迎え人にしかなれない。人類英智を超える英智が実在した。そんな気持ちになる傑作です。しかし、ラストで出会う生命体が平凡すぎて逆にショックを受けました。急にB級映画です。そのまんまエイリアンです。できればラストのエイリアンの部分だけ書き換えたいくらいです。私はこの本ほどアナザーラストシーンを妄想してしまう作品は他にありません。でも好きです。野尻抱介の代表作であり現時点最高作です。この作品から読むべきです。
飛び出せ!青春 Vol.1 [Blu-ray]
「太陽がくれた季節」の旋律が流れるたびに、青春の熱い1ページが甦ってくるようなそんな不思議な感覚に包まれる・・。「飛び出せ!青春」は青春ドラマの金字塔であり、また教育ドラマの原点でもあるような気がする。村野武範扮する河野先生に憧れて、現実の教育界に飛び込んだ人も多かったのではないだろうか。偽りのない裸の心で真摯に生徒たちと向き合っていく河野先生の姿には、時代を超えた理想の教師像を見る思いがする。
第1話「レッツ・ビギン」から、いきなり熱い青春活劇が始まる。新しく赴任してきた河野先生と、石橋正次扮する高木というリーダー格の生徒との火花を散らす熱いバトルは見応え十分だ。個人的には、第4話「やるぞ見ていろカンニング」もお薦めのエピソード。生徒役として、後に熱中先生として一世を風靡する水谷豊も出演していて見事な演技を見せている。とにかく全篇、熱いドラマの連続で泣き笑いが随所に鏤められた傑作だ。
昇れる太陽
エレファントカシマシ、デビュー20周年。
その節目のアルバムは、あまりに骨太で、切なくて、そしてどうしようもなく破壊的で美しい。
Blues風の1曲目「Sky is Blue」で、早くもトップスピードに乗ったかのように始まるかと思うと、「新しい季節を君に」から「絆」、「ハナウタ」、「あの風のように」とメロディアスでリリカルな曲が続く。かと思うと、「おかみさん」「It's my life」「ジョニーの彷徨」と、手を変えつつ「ロック」な曲でたたみかけ、そして「ネバーエンディングストーリー」「to you」でじっくりと聞かせる。
オールドファンとしては「桜の花〜」は、ちょっとサービス過剰か?と思わないでもないが、美しい曲であることは言うまでもない。
激情と詩情に溢れるこのアルバムを聴いて、初期のエレカシをつい聞き直したくなってしまった。