半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)
1985年に出た『半七捕物帳』の新装版。活字が大きくなっている。そのぶん、厚くなってはいるが、読みやすいのは間違いない。
「お文の魂」から「山祝いの夜」までの14篇が収められている。
捕物帳というスタイルを確立したことで知られる「半七捕物帳」だが、結局、これを乗り越える作品は生まれていないのではないかと思わされる。やはり、文章が良い。スタイリッシュで、淡々としていながら、味わいがある。
江戸の風俗を描くという点においても優れていると思う。自身が旗本の子孫であった岡本綺堂ならでは。また、幕末に活躍した半七の話を、思い出話として聞く形式を取っており、無理なく物語の世界に入り込める。
ただ、ミステリとしては弱い。トリックと呼べるほどのものはないし、プロットで読ませていくタイプなのだが、真相が明らかになっても、あんまり驚きはない。そういう読み方をしてはいけない作品なのだろうとは思うが。
半七捕物帳〈3〉 (光文社時代小説文庫)
明治三十年前後、新聞記者をしていたわたしが、江戸幕末期に岡引きを務めていた半七老人の手柄話を聞くという体裁で事件の顛末が語られる「半七捕物帳」シリーズ。
現代から振り返ってみればなおさら、明治の当時から見ても、怪異の不思議をすっと受け入れてしまう江戸の人たち。電灯などはまだ使われておらず、辺りが闇で満たされれば、提灯の明かりを頼りに夜道を歩くよりほかなかった江戸の人たち。江戸時代の怪談めいた話の不思議と因縁、それが事件の謎と絡まり合っている妙味。影を落としている雰囲気。半七老人が淡々と語っていく話の中から浮かび上がってくるそうした江戸の情緒、季節感のある江戸の風情が実にいいんですよね。
本書収録作品のなかで特に面白かったのは、「海坊主」「旅絵師」「雷獣と蛇」「冬の金魚」、この四つの話でした。
「海坊主」では、奇怪な人間が品川沖に現れて不思議な事を行う本文幕開きの場面、そこから話の中に引っ張り込まれました。
「旅絵師」は、半七親分が事件に直接タッチした訳ではないという点で、他の話と毛色が違っていますね。悲劇的な色を徐々に帯びていく話の、哀しく、しみじみとした味わいが心に残ります。
ふたつの別々の話が語られる「雷獣と蛇」。分量が短いせいもあって小味なんですが、“雷”と“蛇”のインパクトが妙に強く、ぴりりとスパイスが利いたような面白さがありました。話の枕での半七老人の台詞も魅力的です。
俳諧の師匠が作品に登場する「冬の金魚」。話の舞台や登場人物の名前をちょいと変えれば、これを現代のミステリとして差し出されてもちっとも違和感を感じないだろうと思った作品。事件現場の不可解な謎と、意外な決着の付け方。何だか松本清張の短編を読んでいるような気がしました。
白髪鬼 新装版 (光文社文庫)
百物語のように参加者が次々と体験した怪異を話していく「青蛙堂鬼談」と同じ形式の怪異短編集です。
多くのレビュアーの方が詳細を記載しているのであえて書く必要はないでしょう。
青蛙堂鬼談の入っている「影を踏まれた女」、そしてこの「白髪鬼」、
三浦老人昔話と新集巷談の入った「鎧櫃の血」
この3冊は買って損のない岡本綺堂の名作を集めた怪異集文庫です。