Silver Pony
ジャンルを超越した選曲センス等「型破り」なイメージのある彼女の作品には珍しく、スタンダードを中心とした構成ながらも
中々の好作だった「Loverly」から2年半、待望の新作の登場だ。ここ数作プログラミングを導入する等新たな方向を模索す
る一方、肝心の作品の質が今一つの印象だった彼女だが、久々に心底楽しめる作品をドロップしてきたという印象。
題にも示した通り、1・2曲目は前作にも収められていた曲のグラナダでのライヴ音源であり、他にも欧州ツアーでのライヴ
音源を複数収めている。残りはニューオリンズでのスタジオ録音であるが、「Beneath a Silver Moon」ではRavi Coltrane(ts
)、「Watch the Sunrise」ではR&B界のスターJohn Legend(vo)をゲストに招き各楽曲に華やかな色を添えている。
しかし何よりも本作の特徴は、ライヴ録音曲を中心とした各バンドメンバーの卓越したプレイが前面に押し出され、従来の彼
女の作品以上に他の楽器にたっぷりしたソロ・パートをあてがい、様々な楽器による演奏を聴ける楽しみが詰まっている。
例えば「Saddle Up My Pony」での冒頭3分にも及ぶReginaldによるブルージーなギターソロ・パートの渋みと味わい深さ、
冒頭「Lover Come Back to Me」で聴ける、前作のスタジオ録音とは別曲のようなHerlim Raileyの気持ち良いブラシ音とスピ
ード感あるドラムプレイ、Jonathan Batisteによる長尺のソロ・パートでの演奏の熱狂振り等、今回一部メンバーを入れ替え
たという彼女の新形態バンドのお披露目の様な内容になっている。どの曲も前作よりも数段面白さを増しているのだから凄い。
一方スタジオ録音ではStevie Wonderのクラシック「If It's Magic」の美しさに惹かれた。原曲はボーカルとハープのみという珍
しい構成だが、あの夢見るようなハープの音色をMarvin Sewellによる温もりあるギターとJonathanのたゆとう様なピアノの
音色で見事に再現しており、それらに濃厚に絡むようにゆったりと言葉を刻みこむCassandaのボーカルが絶品だ。
スタジオ・ツアーのライヴ音源が交互に自然に流れていく贅沢な1時間。本作を聴いて感じたのは、やはり彼女の深みのある
土臭いボーカルには、生楽器による手造り感溢れるサウンドが一番嵌るということ。近作での挑戦的な作風よりもリラックス
感が漂い、初期ブルーノート作品との凄味溢れる感触とも違う、正に現在の彼女の姿を見事に捉えた傑作だ。
New Moon Daughter
カサンドラの名前は知っていてもファンではなかった。エロいジャケ写真とCDショップの「泣ける」のコメントが気になり新譜で購入したものの,ななめに聴いてそれっきり。ところが10数年ぶりにCDラックから取り出しプレーヤーにかけてショックを受ける。異様な殺気を孕んだStrange Fruitでいきなり胸をつかまれ,続くLove is Blindnessの切なくも深い優しさに解き放たれる。その後はひねりの効いたアコースティックなサウンドをバックに,カサンドラの懐広いヴォーカルが抑制された色彩に溢れる世界にリスナーをいざなう。実際に「泣ける」かどうかはさておき,この音楽がそんなにもエモーションを揺さぶることに何の疑問もない。あまりにも長く寝かせすぎていたが,こんな傑作が自分のコレクションにあったことは望外の喜びである。
カサンドラ・ウィルソン: Traveling Miles [DVD]
初めてStrange Fruitを聴いたときの衝撃は忘れられない、いわゆる一目ぼれだ。
Cassandra Wilsonは常に新領域を開拓する、これは二番目の夫イサークが監督するフィルムで、オーストラリアとニュージーランドのライブ・ツアーを主体とする。CDのトラヴェリング・マイルスとは10曲中3曲しか一致していないし、いわゆるトリビュートではないとCassandraは力説している、その理由は是非聞くべきだ。
マーヴィン・スーウルのギター演奏およびスライド奏法の熱き語り口、夫イサークとのブルースに関する議論、驚いたことに終わり近くStrange Fruitを魅惑的な姿とともに聴くことができる。そのときCassandraは42歳、曲を耳から聴くことだけで充分だといえたらどんなに良いだろう。それにしてもイサーク監督は才能がないんじゃないか・・・これはきっとジェラシーに違いない。
同時代のメッセージをつかむなら早いに越したことはない、Cassandraが生きているうちに!
マイ・ブルーベリー・ナイツ オリジナル・サウンドトラック
輸入盤より1000円近く高いですが、これだけでも国内盤を買う価値は大いにあります。
Otis ReddingからCassandra Wilsonまで、相変わらずのセンスの良さですが、役者としても出演しているCat Powerの「THE GRATEST」がとにかく素晴らしい。
「夢二のテーマ」の再登場はウォン・カーウァイファンにはたまりません。