幻魔大戦 (秋田文庫 5-39)
石ノ森章太郎さんが描いた幻魔大戦は、スターウォーズのような長い物語の一部です。特に面白いのは、前半の超能力を持った人間の反応を描いた部分です。アメリカのTVシリーズ「ヒーローズ」を観ていて、すぐにこの「幻魔大戦」を思い出しました。後のESPを扱った作品は何らかの影響を受けていると思います。少年雑誌に連載された作品ですが、当時の作家の目線が非常に高かった印象を受けます。子供を子ども扱いしないで、難解な内容でもじっくり作品にして提供している点が日本の漫画界の道を切り開いていった人たちの思いでしょう。連載されていた頃、ナポレオンもヒットラーもちびだった、という東丈のセリフをずっと忘れずにいます。何度も読み返している作品ですが今回文庫で読んだ感想としては、やはり文字が小さすぎて読み取りづらいのが難です。なるべく紙面の大きなものを選ばれたほうが良いと思います。一度に全部読めるという点では、この秋田文庫も良いと思いますが。
e文庫 『幻魔大戦deep』 平井和正
この「deep」は即ち「深・幻魔大戦」ということだろうが、再読を始めてみると、初めて読んだときほど東丈の描写やそもそもの文体に違和感がないのに気づいた。もっと「アブダクション」のような(つまりは「地球樹の女神」以降のか?)平井和正の「軽み」の部分が前面に出て、重みの部分は見えづらい、あっても続かない、文体になっており、東丈のキャラクターが直哉もどきになっている記憶があったのだ。
だが、ちょうど同時並行して「真幻魔大戦」を再読していたのだが、さほどの相違は感じられない読み始めだったのだ。
それが、一気に「アブダクション」度を加速したのは、“すてきなお母さん”雛崎みゆきが登場してからになる。彼女の登場以降、丈のキャラクターも世界の描写も「アブダクション」に“憑依”されていく。
が、にも関わらず、では雛崎みゆきというキャラクターがそれほどの圧倒的な存在感を持っていたかといえば……これは決してそうではないのだ。登場当初はそれなりの平井和正の女性キャラクターとしての魅力を備えているかに見える……が、振り子を丈に伝授することのみが役目であり、それが終わればもはや使命を果たしたかのごとく、急速に存在感を喪失していく。いてもいなくてもいい存在としか思われないのだ。(その証拠のように、続く「幻魔大戦deepトルテック」では消失している!)
この「deep」において、新しく登場した重要な女性キャラクターの中でも、雛崎みゆきほど重要であり、そして同時に存在意義のなかったキャラクターはほかにはいない。丈にとってすらも、最速で美叡(&美恵)や雛崎みちるに比べて、みゆきが占める割合はみるみるうちに失われていったのではなかったか。
平井和正作品の魅力のひとつには、確かに女性キャラクターの備える“女神性”があったはずだ。ところが、この「deep」で登場した女性キャラクターたちはいずれもかつての魅力に欠けている。東美恵たちなど、「真幻魔大戦」時の養女時代の愛らしさはどこへやら、といって虎4や杉村優里のようなパワフルな魅力を備えているわけでもなくという、どうにも感情移入する魅力の乏しい女性陣だったのだ。
「真幻魔大戦」登場時の美恵は、「東美恵子」だったはずで、それが“夢魔の寝室”編あたりから「美恵」になっているので、その辺ですでに世界が変わっていたのかも? 「美恵子」のままだったら、また違ったのかな? ……この辺は余談中の余談である。
丈のくだけた口調は、べらんめえ部分はともかく、GENKEN主催になる前の少年の丈にはちゃんと存在していたものなので、それほど違和感はない。それよりも、フロイのような“宇宙意識”とインフィニティたる“宇宙意志”はどう違うのか、振り子はコックリさんとは違うのか、そんな細かいあたりが気になってしまうところはある。
GENKEN時代の丈の失踪が、ついに逃避だったと断定されてしまったが、これはつらいところではあるかもしれない。
けれど、GENKENを作らないでいた丈のまわりにやはり久保陽子や平山圭子もいたようだ。彼女たちと一緒に、“非・GENKEN”の丈はいったいどう活動しようとしていたのか。その物語も興味が湧いてしまう。オヤブンでもなく、東丈先生でもない丈は、はたしてどう幻魔大戦に関わっていったのか。
そして……GENKEN世界の延長でありながら、ハルマゲドンの少女にはつながらなかったらしい世界の木村市枝は、「砲台山」の時同様、やはりあくまで木村市枝だった。それがやはり、純粋に嬉しいのが、どの読者にも共通のことではないだろうか。
幻魔大戦 [DVD]
こういう風にアニメ作品が安くなって再発されるのはいいことだ。
まあ、ブルーレイになってまた発売されるかもしれないけど。
で、この作品。
当時は映画界の風雲児:角川映画初のアニメ作品ということでなかなか盛り上がっていた。
劇場も結構席が埋まっていた。
大友克弘のキャラ、当時の新宿を徹底的に再現した背景、キースエマーソンによる
主題歌、豪華な声優陣、と話題も豊富。りんたろうの演出も相変わらずいい。
まあ、あれで幻魔が滅びたわけじゃないけど、まずまず面白い。
リアル世代にはウケがいいかもしれないけど、正直イマドキの若者はどういう感想
を持つのか知りたいナ。
幻魔大戦 1 幻魔宇宙/超戦士 決定版 幻魔大戦 全10巻 (決定版 幻魔大戦) (集英社文庫)
最近流行りの超能力バトルを期待して読む人はガッカリするでしょう。しかし本当に伝えたい事はそちらじゃないと解る人は読めるのでは…
幻魔大戦deep トルテック
ちょっと反則かも知れませんが、まだ途中までしか読んでいない段階で、レビューします。1970年代くらいから始まったシリーズですが、その後、約40年に渡って、さまざまな形に発展していたらしいです。実は、私も、途中で挫折した読者であり、最初期の頃しか知りません。でも、あの《幻魔大戦》シリーズの完結編(?)と思われる作品が出版ということで、思わず購入してしまいました。内容的には、一巻目の段階では、抜群に面白いです。二巻目以降の展開が、非常に楽しみです。全巻、読了後の感想は、また改めて追記したいと思います。
(追記:ただ今、第2巻、読了しました。非常に面白いです。まず、主人公が《東丈》ではなく、東丈の義理の娘《雛崎みちる》に変わっている所が、面白いです。もちろん、東丈も登場しますが、あくまで《脇役》です。それと、このシリーズはもともと、《キリスト教的世界観》に基づく作品だったはずなのに、今では、《カルロス・カスタネダ的世界観》に基づく作品に、シフト・チェンジしています。この辺りも面白いです。次の第3巻で、どう物語をまとめるのか?非常に、楽しみです。)
(追々記:全3巻、本日、読了しました。これは、超・面白い《傑作》です。初期『幻魔大戦』からは想像もつかない、《トルテック》的宇宙観が、非常に興味深いです。あと、初期作品によく見られたグロテスクな描写もほとんどなく、素直に楽しめました。それに、さすが《元祖・言霊使い》だけあって、読者を物語に引き込む《筆力》は、圧倒的です。この《トルテック》的宇宙観に関しては、個人的には、もう少し深く学んでみたいと思いました。傑作です。)