白蓮れんれん (集英社文庫)
女性の本音っていつの時代も同じですが、違う時代を舞台にすると、その切実さが際だってきます。今と違って制約もかなり多い。
既婚者の不倫は法に触れる行為として「姦通罪」に直結。
単なる火遊びであればやめておくのが賢明。だが、それが本気の恋であれば命がけです。
この物語の主人公である柳原白蓮は皇族の血を引く女性。
1度目の結婚は同じ皇族との縁組みであるが愛のない結婚。二度目は九州の炭鉱王に嫁ぎ、夫の女遊びに苦しむ。
白蓮は二度の不幸な結婚を経験するものの、美貌と知名度で詩人として活躍。その中で出会った宮崎青年と恋に落ちる。
宮崎との出会いにより、今の夫との離婚を決意し、出奔。
この時代における駆け落ちは死と隣り合わせ。
だからこそ、本当の幸せのために地位も名声も富も捨てる覚悟を決めた白蓮の意志の強さには感服させられます。
ただ、白蓮の出奔後から宮崎との結婚に至る描写が簡略になっている点は残念。この点がきちんと描かれていたら白蓮の意志の強い人柄がもっと際だっていたと思います。
それでも、林さんの白蓮に対する並々ならぬ思い入れの強さは感じられます。
この作品は是非ともドラマや映画で観てみたい作品です。
吉原花魁日記 光明に芽ぐむ日 (朝日文庫)
本書は群馬県高崎市に育った著者が大正13年、吉原の妓楼に19歳で売られ、脱出するまでの生活を赤裸々に綴った本物の日記である。
育った家庭の窮乏を救うため,周旋屋の甘い口車に乗せられて2年位の軽労働のつもりで廓に入った彼女を待ち受けていたのは文字通り地獄の生活であった。
身体が悪かろうが病気になろうが客を取らされる毎日毎夜。しかも飲食は辛うじて糊口をしのぐ程度のものしか出されず、上がった客の飲食に寄生してやっと栄養を保っているありさま。しかも客に出した菓子の類まで借金に上乗せされる。貧窮にそだったにしては聡明で教養もある彼女は女郎屋の主人の取り分まで正確に推測して記録しているが、これを読むと働いて(つまり身を売って)将来自由になるなど夢の夢で、ここでの生活が長くなればなるほど借金が膨れ上がり身動きならなくなる。病気(大抵は花柳病)がひどくなれば吉原病院に入院させらえるが、ここでの扱いが、これまた女郎屋の一機関と思われるほどひどい。
彼女を意を決して当時の柳原白蓮の元に逃げ込むが、さもなければ借金に縛られたまま死ぬほかなかったろう。
彼女の筆力のせいで、面白いといっては失礼だが、一気に読ませる内容である。
白蓮れんれん (中公文庫)
時は大正。華族として生まれ、2度の愛のない結婚の末、7歳年下の宮崎青年と恋に落ち、命がけでその恋を成就させた白蓮の生き方にはひたすら感動させられる。未公開の書簡を元に新事実が明らかにされているところなどは興味深い。ただ、白蓮が出奔を決意した際に「本当にこの人を信じていいのだろうか」などと宮崎青年に疑いを抱く記載があり、それは違うのでは、と思った。白蓮は宮崎青年のことを100%信じ切っていたはず。そうでなければ、貫通罪の存在する時代、華族という立場も捨て、命にもかかわるような危険に身を投じられるわけがない。この箇所が、この小説を台無しにしていると思った。全体的にも、純愛小説として美しさに欠けている。林真理子には失礼だが、違う作家にこの題材でもっと美しい小説を書いて欲しいものだ。