贅沢貧乏 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
世の表面にふわふわと浮いて暮らしている著者の不思議な生活。
「フツウの生活」をやり棄てて、ただ自分の好きなものだけを目で追う暮らし。
縦横無尽に見えながら、その行動範囲は存外狭い。
脳漿の中のバーチャルな世界で暮らしている。
ぞろぞろと連なる文章は、とりとめもない雑談のような話の飛び具合。
寂しさを紛らすうちに習慣になった独り言のようで哀しい。
著者は1987年6月6日、自室で心不全のために孤独死、2日後に家政婦に発見された。
私の美の世界 (新潮文庫)
男なら永井荷風、女なら森茉莉。私はこの二人に物凄く惹かれる。
現代は醜いものばかり跳梁跋扈し、美しいものが少ないが、
それでも美しいものを集めれば、それなりに美しくなるわけで、
ならば、自らで美の牙城を作ってしまえば良い。
現実が汚いからと言って、何もそれを追随する責務はない。
だから、美なり芸術なりがあるわけで、私は森茉莉の美の世界が好きだ。
現代は美しいものが少ないと言ったが、CDや画集や本などで、
誰にでも美しいものに触れる機会が用意されているのだから、
日本人全員が「美しくなければ嫌だ!」と言ってやれば良いのだ。
森茉莉に興味がある人、「欧羅巴」が好きな人、美しいものが好きな人、
現代に納得していない人、それから美輪明宏さんが好きな人も好きだと思います。
是非、お勧め。
貧乏サヴァラン (ちくま文庫)
このエッセイ集は、機嫌のわるい・よいときにかかわらず、いつでも開いて差しさわりのない、稀な、私にとって貴重な存在。いつでもバッグのなかにある。
この文庫本は森茉莉の作品から、食に関する短編をいくらか取り出してまとめたもの。
自分にとってのたのしいもの、美しいものに自然に反応する清潔な六感を持っていて、描き出し方に独特の偏狭さがありながら、憎めない。
森茉莉の芯のあたらしさ、真摯な感覚にひきこまれる。