北原白秋詩集 (新潮文庫)
『北原白秋詩集』。『邪宗門』をはじめとした代表的な作品を収録した詩集ではありますが、短歌や、『ペチカ』『揺籠のうた』といった童謡や歌曲の歌詞も入っています。巻末には年譜もついていて、白秋の足跡を追う上ではそれなりに満足できる文庫となっています。
小学生くらいの子供が作った詩は、文章の上では稚拙であっても、瑞々しい感性とどんな物にでも輝きを見出す視点とで、読んだ大人に新鮮な感動を与えることがあります。
白秋の童謡は、そういった子供の長所を保ったまま、極上の文章技術で書いている、と捉えれば理解しやすいでしょうか?だから時代を超えて愛され続けているのですね。
そういったわけで、普通の詩集は小難し過ぎてとっつきにくい、という人でも割と親しみやすい一冊なのではないでしょうか。
桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)
チェホフは人生の様々な諸相をこの戯曲にちりばめているけど、わたしは
“人間生きていくためには社会のために働かなければいけないですよ”という彼のメッセージを受け取った。
なぜ生きるかは極めて実存的事柄であるから、どれだけ遠大な思想や技能をもっていても自分だけの内にとどめていたら虚しい。
誰かのために役立てたり、社会に働きかけることによってそのひとの生は開花し人生は意味あるものと感じられるのだろう。
確かに内容は盛り上がりに欠け、単調気味でさえあるがそれでもチェホフのロシア市民の生活に対するやさしいまなざしがいたるところに見て取れる。
「三人姉妹」の最後でマーシャが“生きていかなければ”といい、オーリガが“生きていきましょうよ”という台詞はなんとも微笑ましい。
可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)
チェーホフの人間を観察する才能はずば抜けていて、しかもそれを短編小説という形で表現する力量は圧倒的です。
人間を観察し、細やかに描いていき、最後にストンと落とすような持っていき方は一作一作がウィットに富み、優れています。
ロシアという国はよくわからないと思っている方も多いと思いますし、ロシア文学というと暗くて長くて読みづらいというイメージが付き纏いがちですが、チェーホフの短編、特にこの本に収録されている短編は、ロシア文化を知らなくても十分楽しめると思います。
チェーホフは原文も訳文も読みやすいものが多いですが、この訳は(昭和15年の岩波文庫版を編集部が現代表記に改めたもの)原文のテンポのよさがあり、非常に読みやすいと思います。