Risk Management and Financial Institutions
今般のサブプライム危機を評者個人なりに総括すると「構造的バブル」ではなく、「認識論的破綻」だったということができると思う。ファイナンスのプロのブロガーの多くは、サブプライム関連のCDS-CDOには透明性にも法的にも問題がなかったと強弁するが、本当にそうだったのだろうか。単に今回表面化したリスクを認識できる概念がなく、それを認識できなかっただけではないだろうか。プロたちのバイブルの著者の手による本書の改訂版はそうした疑問に対して明確に「教科書的」な解答を与えてくれた。
リスク概念として「モデルリスク」、「流動性リスク」等を、評価方法として「ストレステスト」等を追加、今回の教訓を踏まえ説明が加えられる。
サブプライム問題についても1章を設けており、今後の提言としては1.オリジネーターと投資家のエージェンシーコストを防ぐため、オリジネーターもCDOの一定のポジションを保有すること、2.金融機関と勤務者のエージェンシーコストを防ぐため、後払いボーナスを計上しておき5年間の実現したネット分のみを支払うこと、3.従来も法的契約書で情報開示に透明性があったことは確かだが、逆に複雑すぎてリスクが見えなくなっていたのも確かであり、契約文書だけでなくリスクを計測できるモデルをソフトとして配布する、4.ABS-CDOはCDOスクェアと同様に複雑であり格付低下時のリスク評価モデルが不十分(モデルリスク)であり、十分なモデルを再構築すべき、5.歴史的データを利用するVARのみに依存せず、ストレステストも十分行うべき、など。
注)洋書一般では、財務上の信用力を示すSOLVENCYと流動性を示すLIQUIDITYは峻別されるが、LIQUIDITYの中には換金性と(金融)商品流通性の概念がぶっ込みになっており、本書でも同様。