美の猟犬―安宅コレクション余聞
松本清張の小説に安宅産業の崩壊をモデルにした「空の城」という作品がある。何度も繰り返し読んでいる一冊だ。
だから、この本を手に取った理由は、安宅コレクションの美術品に対する興味ではなく、それを蒐集した安宅英一という人物に対しての興味であった。
著者は、安宅産業入社後、彼のもとでコレクションの収集に携わり続けた経歴を持ち、コレクターとしての英一氏の最も傍にいた人物である。安宅産業が崩壊し住友商事と合併する際に退職、大阪市立東洋陶磁美術館(安宅コレクションが収められている美術館)の館長に就任、現在に至っている。安宅英一を描くのにこれ程の適任はいないと思い、かなり期待して読み始めたが、結果としては、満足半分、物足りなさ半分だった。
期待通りだったのは、安宅英一が松本清張の小説で描かれている人物像に近いと確認できたことだ。とても会社のトップ(取締役会長)にいた人物とは思えない浮世離れした人柄、会社の経営には口出しはしないが人事権だけは離さない。でもそれだけではないと思わせる何かがある。確かに複数の作家が評伝を書きたいと思いたくなるような人間性だ。
物足りなさを感じたのは、著者自身もあとがきで「安宅英一を一人のコレクターで、というスタンスで見るという姿勢を堅持したために、人物のトータルな捉え方としては突っ込みが足りないという批判もあり得るだろう」と認めているとおり、経営者としての顔を含め全体像が見えないことだ。
この本の構成は「書き下ろし」が半分。英一が蒐集した陶磁器のカラー写真に購入の際のエピソードが附されたものが約30p、19年に開催された美術展「美の求道者―安宅英一の眼」にちなんで行なわれた著者へのインタビューの転載、陶磁器にまつわる著者のエッセイが収録されている。よって、内容の重複もかなり見受けられる。後半は、関係するものを取り敢えず掲載しましたという感が否めない。
愛だけを残せ
“愛だけを残せ”とサビの部分から始まる新作映画『ゼロの焦点』の主題歌を一度聴いた時、背中がゾクゾクッとし同時に涙が出た。冒頭からストレートに歌曲全体のテーマをたたき付けてくる中島みゆきさんの姿に“凄み”を感じて、毎日のように聴いている。
“自らを愛すること”と“相手を愛する”ことの間には隔たりなどない。むしろ“自らを愛することのできない人に、他の人を愛することなど決してできることではない”との思いが伝わってくる。今、最も必要なこと、それは“人間を愛する”ことに他ならない。例え、それが荒波に抗う小さな力のように見えても周りにいる人は必ず傍に来てくれる、だから“人間を愛し、信じたい”との想いが胸に響く。
前回のアルバム『ILOVE YOU答えてくれ』がストレートなロックンロールアルバムだったことを思えば、この作品はスタイルとしてその延長線上にあることは当然のことかもしれない。
間もなく発売される新譜と早く比べてみたい。
砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]
改めて観なおしました。デジタルリマスター版で画像が良くなってます。
加藤剛さん演じる犯人、丹波哲郎&森田健作さんの刑事の奮闘。
そして重要な役どころの加藤嘉さん演じるハンセン病患者である親。
脇も島田陽子さん、殺され役の緒形拳さん。ちょっぴりスパイスを効かせる渥美清さん。
やっぱ、今時の俳優には無い演技。もちろん監督は巨匠野村芳太郎さん。
脚本の橋本忍さんと相まって、日本映画の最高傑作のひとつです。
これを先に見てからテレビの中居のを見ると、テレビのほうは二度と観たくはありません。
津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)
昭和13年に起こった、岡山県の僻村で30人の命を奪うという陰惨な事件。
その事件を追ったノンフィクションである。
此の事件は、横溝正史の『八つ墓村」の冒頭でモデルとされ、松本清張はノンフィククションの形で
『闇に駆ける猟銃」を著した。
なぜ一夜にして、30人もの命を奪ったのか、
同期としてあげられるのは、
性関係にあった女性への怨み、集落の紊乱した性習俗、貧困、病気、よそ者を相容れない村の因習、犯人の疎外感
などだが、どれもが複合したであろうことは察せられても、それ以上の心の闇は分からない。
犯人は、山の中に逃げ込み、その後自傷して果てた為、自らの口からは語られず、残った遺書によって案ずるのみだが、
本に掲載された、遺書を見ても、ますます腑に落ちなさが増すばかりで、人間の懊悩の深さに慄然とするばかりだ。
なお、巻末のあとがきは、本全体のレジュメといったかたちで、ここを読んでから、本文を読み始めるのも良いかも知れない。
官愚の国
著者が、大蔵省時代、異端とされていた様がうかがえる。いわゆる東大法学部派閥が基本形とされる世界である。
なかなか庶民感覚は受け入れられなかったであろう。(別に著者が庶民だったというわけではない)
なるほど知恵者としての著者のたくましさも感じる。
官僚社会の考察資料としてオススメ一冊。
但し絶対やってはいけないことは鵜呑みにすることである。これはあくまで元大蔵省の一意見。
自分の目で確かめてみることをお勧めする。
そのための努力を惜しまなければきっと、報われる。