萬花鏡(紙ジャケット仕様)
1975年録音の記念すべき1st。いつのころから彼女を聴き始めたのか、80年前後だったのかもしれない。先ず中古屋でこの1枚目に出くわした。タイトルと、彼女の、あやとりひもに指を通した、まだ幼いが不敵なまなざしに思わず吸い込まれた。それから、同じ店で「密航」(1976)、「胎児の夢」(1977)、「蝶のすむ部屋」(1978)を入手し、貪るように聴いた。・・・あれから30年近く、今でも彼女の歌を聴いている。彼女の作品の中では、この1枚目が最も好きだ。それは、1枚目にして、早くもこの作品のそこかしこに、後のアルバムでさらに展開されていく彼女の特異なイメージのエッセンス(ある種の文学世界への偏愛、古典詩歌へのこだわり、物語伝奇趣味、演劇性、厭世感、陋巷志向、耽美主義、残虐趣味、倦怠感、エキゾチズム・・・)を伺い知ることができるからだ。まさしくこのアルバムのタイトル通り「万華鏡」!
胎児の夢(紙ジャケット仕様)
出来れば、「万華鏡」、「密航」、そしてこの「胎児の夢」を通して聴いてもらいたいですね。すると、彼女の特異な、絢爛たることばの世界を実体験できると思います。
本作は、彼女の作品の中でも、最も「ある種」の文学色が強い作品です。特に、夢野久作や江戸川乱歩、谷崎潤一郎、梶井基次郎等の作品が好きな方には、すーっと入っていける世界だと思います。
「密航」に続いて、佐井さん自身がジャケットの絵を描いていますが、これが絶妙な相乗効果です。いわば音楽に、耽美・デカダン文学の要素を巧みに取り込んだ、佐井好子さんの集大成的なアルバムと、私は解しています。
ただ、作品として「モチーフ倒れ」(アングラ嗜好、低俗・変態趣味)にならなかったのは、ひとえに彼女の本格派ジャズ・ヴォーカリストとしての力量によるところが大きいと言えるでしょう。モチーフとの距離感も上手く抑制できていると思います。