ペンギン村に陽は落ちて
現代文学の傑作です。いわゆる、鴎外や漱石が活躍した近代文学以降、文学者たちはいったいどうやって新しい文学をやればいいのだろうとさんざん悩みました。アメリカでポストモダンという運動がブームとなり、やがて日本にはいってきます。ポストモダン文学は、あまり専門的なことは詳しくは言いませんが、大きな物語の解体、メタフィクション、パロディ、オマージュ、スリップストリーム、パステーシュなどの技法を用いています。
高橋源一郎は、日本のポストモダン文学の第一人者です。この小説は小説でありながら、小説の言語で書かれていません。マンガの言語で書かれているのです。サローヤンの「パパ・ユーアークレイジー」へのオマージュだろう序章で小説について述べ(メタフィクション)、マンガ(というかテレビアニメ)の人物を使い(パロディ、オマージュ)、奇想天外な話を展開させます。
いわゆる内輪の言葉というやつを使っていますが、高橋源一郎はそれが内輪の言葉が真に自由な言葉となる瞬間を夢見ている。アニメにおける内輪の言葉(固有名詞)を使い、小説において内輪ではないアニメの言語を用いて書かれたこの小説を、私は心底おもしろいと思うのです。
ただ、文学的なことを考える必要はありません。それ以前に、読んでいてひたすら楽しいです。
旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ [Blu-ray]
前半ははっきり言って退屈である。どんどん寂れていく動物園を、史実をもとに(それぞれの事件の時間的順序は史実とは入れ替えてあるが)淡々と描いているからだ。そんな中での見所は、妊娠中毒で厳しいカロリー制限に苦しむチンパンジーに隣の檻のオスが手をさし延べるシーン。これはスタッフが芸を仕込んだのでもなければ、着ぐるみの中に人間が入っているわけでもない。ここが泣き所だ。
後半は「もっと詳しく!」だ。新市長のもとで旭山名物「行動展示」が具現化していくありさまは短く流されてしまうが、ここはもっと「試行錯誤→成果→喜び」という流れを克明に描いてほしかった。原作本を読むことを強くお勧めする。
ラストシーンの演出には不覚にも泣いてしまったが、まあこの程度の嘘は許そう。
旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ スペシャル・エディション [DVD]
いまや旭山動物園をしらない人はいないと思うが、このお話は飼育係、獣医の情熱があったからこそではなく、市の「財政」が協力してくれたからだとおもう。
田舎にはもっと寂れた動物園がある。
そこではほんとうに檻のなかで生涯を閉じるというだけの動物も存在していることを忘れてはならない。
この映画に水を差すようだが、前田愛らが扮する動物保護団体が言うような事実も存在するのである。
動物と人間の”本当のあり方”も考えさせられる映画でもある。
桜は桜/夢になりたい
夏(ツバメ)、秋(ロード・ソング)、冬(十三夜/マカリイ)、そしてこの春(桜は桜/夢になりたい)と続く「四季の旅」シリーズの“完結編”。老錬の境地に入ったチンペイさんがここでも「ひたすら散る」花を、人生になぞらえて歌い上げる。
「旭山動物園物語」の主題歌、「夢になりたい」がいい。特にアルバムにはまず収録されることはない「西田敏行&出演者バージョン」は、同じ歌とは思えないほど楽しい。失礼ながら、この1曲だけでも充分お釣りがくる。
映画のラストで、西田敏行演ずる退職した園長が歩いて行く姿を延々と写していたあのシーンに重なる。何かを成し遂げた男の背中だった。