Joan Baez 1
この人の素晴らしいところはいつも等身大で気取った所がどこにもないところだ。技巧的でサウンドがどうのこうのなんて云う議論はこの人の真っ直ぐで素朴な音楽の前には陳腐でしかない。飾り気の無い素直な言葉をアコースティックギターに乗せる、ただそれだけ。"All My Trials" や"Wildwood Flower"での見事な歌い口は彼女が本当にトラッドを生活の中で歌い音楽として吸収してきたのだなと思わせるが、日本でも有名な"Donna Donna"なども収録されていてトラッド中心とはいえ多彩なアルバムでもある。singersongwriterとして有名な彼女がヴォーカリストとしての才能を如何なくはっきした傑作。
ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD]
家路とは帰路でもなければ過去でもない。US版のDVDとNHK-Hivion放映そして渋谷のロードショーのスクリーンでこのスコセッシの作品を観て「no direction home」の意味が初めて理解できたように思えた。家に帰る道などないのだ。それは未来にむかっているものであり、到るべき地点に必然か偶然によって導かれる方向のことなのだ。いみじくもDylan自身オープニングからそのことを語っている。
この作品の卓越した完成度や内容のすばらしさはすでに以前にもUS版DVDの批評に書いたので省略するが、今再び真の傑作であることを痛感する。それは、あのLike arolling stoneを軸とした流れの中に、まさに人間の過去ではなく「今」と、これからむかう道について、この道の方向は定まっていないし、定める必要もないことを、Dylan自身の言葉と映像によって描き出す。
Dylanの軌跡は人間の精神の崇高な葛藤の軌跡であり「生き続ける」痛々しいほどの真摯な姿である。No direction homeで良いのだ、No direction homeであるべきなのだ。そのことを描ききった点においても本作品は傑作なのである。スコセッシの視点も、Dylanの過去も現在も通常の回顧的なミュージックビデオや伝記ものとは別格の意味をもつのである。
ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD]
本編は66年UKツァーまでのディランの歴史的映像で、英語と日本語を同時に表示させれば、各人の言葉を深く理解することができる。、「はげしい雨が降る」を初めて聞いたときに泣いたというアレン・ギンズバーグ、あるいは心強いバックバンドであるザ・バンドを騎士たちのようだというディランの言葉等は、当時のアメリカの文化、ロックの流れを活写していて心に響く。
特典としてフル・レングス・パフォーマンスが数曲収められている。その中では、65、66年のUKツァーのときのものが素晴しい。ホテルでの騒ぎの中で、生まれて間もないラヴ・マイナス・ゼロをディランがギター1本で弾き通し、最後には皆が聞きほれてしまう場面、そしてコンサートでのライク・ア・ローリング・ストーン, いつもの朝にの演奏は圧巻である。それから、本編でインタビューを受けた、バエズを含む4人が各々ディランの曲を歌う貴重な場面も収められている。バエズが時折ディランのマネをしながら、Love is just a four-letter wordを最後まで演奏する場面は、2人の歴史に思いが及び、本当に胸に染みる。それら特典を含め、本DVDは疑いなく何回も観たくなる作品だ。
ニューポート・フォーク・フェスティバル [DVD]
1963〜66年にかけて Newport Folk Festival の模様を撮影した Murrey Lerner 監督のドキュメンタリー映画です。当時の流行を反映してか、やはり映像の主役は Bob Dylan 、Joan Baez 、Peter,Paul&Mary という感があり、中でも1965年7月25日のエレキギターに持ち替えた Bob Dylan に注目が集まりがちですが、少し視点を変えて見ると、Son House 、Mississippi John Hurt 、Howlin Wolf など“動くブルースマン”が拝める貴重な作品であることに気付くと思います。また、当時の若者たちのファッションは“アイビールック”が主流で、ヘアスタイルも7:3分けの短髪が多く、数年後の Woodstock の頃に全盛となる“ヒッピー文化”の兆しがまだ見受けられないのも興味あるところではないでしょうか?